Brassed Off

『Brassed Off(ブラス!)』

何の予習もせずに観た。イングランド北部、ヨークシャー地方にある小さな炭鉱の街が舞台だった。炭鉱で生計を立てて暮らしている人がほとんどのこの街で、鉱山閉鎖という一大事がおきており、なんとも暗い?テーマの映画だった。0を1にする話ではなく、1が0になるかならないかぐらいのそんなところだから…重たいというか…何度も書くようだけど、暗い感じが強かった。作中の空もどんよりとしていたし…。

1992年当時のイギリスは、鉱山の需要が減り、政府政策により鉱山が次々に閉鎖されていっていた時代。イギリスにはこういった、労働組合ごとの楽団活動があり、地域ごとに大会もあるらしい。福利厚生みたいな?よくわからないけど。そのブラスバンド大会直前に閉山となった炭鉱の街の楽団が優勝したという実際のエピソードをモチーフにこの映画は作られたんだそう。作中で演奏しているバンドメンバーの中には実際にそのバンドの演奏者もいたとか。セリフのない、だけど楽器演奏をしている方が、もしかしたらそうなのかもしれないけど。

フィルは、北部の小さな街で鉱夫として一家を支えていた。だけど、貧困だし、失業の危機がある。家を建てたり楽器を買ったり子育て等で借金がかさんで…生活苦である。それでも楽団はやめない。そればかりか楽器の新調もしてしまった。そのせいでやはり妻には愛想尽かされるわけだけど、その後の躁状態がひどく悲しく見えた。お金を稼がないと生活していけないからピエロのバイトをして子供や教会などでピエロを振る舞うのだけど、そのバイト中、心情が爆発した。あのメイクの下は泣きじゃくってたんだな…ピエロって、悲しい。笑っているようなメイクだけど、潰されそうで苦しい心だったり泣きそうな顔を隠すためにああいうメイクなの?なんだかとっても悲しかった。とにかく、切なくて悲しかった。

ピエロのメイクのまま、マリア像に向かって叫ぶシーンは泣いてしまった。

「神が何をしてくれた?!ジョン・レノンを死なせ、坑夫を死なせて、今度は俺のオヤジだ!でもサッチャーは元気だ!何が神だ・・・!」

きっと誰もが、笑顔の裏に悲しみや辛さを隠してて…たまに吐き出せる人はいいけど、そうじゃない人もいるんだ。そういう人のほうが多いんだ。我慢し続けるのが偉いわけでもないけど、吐き出すのがすべて正解というわけでもないんだろうから、ほんとうに難しい。

実家に帰ったサンドラ(フィルに愛想を尽かした妻)と息子が遊具で話すシーンも、アレも何気に心に来る。

「楽器を買ったのはおじいちゃんに良い思い出を残してやりたいから。幸せな思い出で別れたいって言ってた。パパに会えないなんて嫌だよ、悲しいパパなんて嫌だよ」

セリフだとこれだけだけど、映像で見ると、さっきのピエロのメイクで泣いてるパパのシーンの次にこれ(たしか、そう)だったから、胸にグッとくる。あの子は父親の、あんなピエロ姿で泣いてるなんて見てはいないけど、見なくたってきっと感じ取っていたんだろうなあ…切なくて、ほんとうに悲しい映画。

全体的に雰囲気が暗くてアレな作品だけど、ラストで明るいシーンがあった。よかった。

フィルの父親で、楽団の指揮者の頑固親父・ダニーは病に倒れ入院中。容態が悪化したのかしないのか覚えていないのだけど、ある夜、病室の窓の外にメンバーが集まり、一曲演奏しだした。その時の彼らの格好は、炭鉱夫の格好だった。夜なので暗いから、ヘルメットについたライトを点灯。それで、ダニーに演奏を聞いてもらうんだが、おじさんたち皆カッコ良かった。ユアン・マクレガーさん演じるアンディは楽器を賭けに使い負けてしまったため自分のパートは口笛でやり過ごしていたけど、ダニーにはそれがお見通しで、アンディの音が弱かったなって。実際には夜に病室の窓の下で演奏なんてそんな騒々しい事あり得ないけど、映画だから、いい。

ユアン・マクレガーは若い頃もハンサムで、血気盛んな感じが、昔のトム・クルーズみたい(笑)

フィルのお父ちゃん役の俳優さんは、あの日の指環を待つ君へ に出ていたベテランさんでしたね。