出会いは、小学3年の頃だった。父の入院に付きそう為に訪れていた病院の、最寄り駅を出たところにある小さな本屋だった。父は欲しい本があった。でも手術後で外出が出来ない。そこで私にお遣いを頼んできた。ついでに欲しい本があったら買ってきていいよ、と言われ、見知らぬ土地を、父の描いてくれた地図を頼りに歩いた。
病院を出てすぐ左に曲がり、突き当たったら右に曲がる。しばらく歩くと左側に改札口が出て来るから、その前を通り過ぎた先に本屋はあった。今思えば簡単な道のりだが、子どもには冒険だった。色々な障害や興味が行く手を阻む(笑)。
そうしてたどり着いた本屋はとても小さい。狭い。通路も狭い。天井まである高い本棚にぎっしりと色々な本がつまっていたが、背が低いから上の方はどんな本だったのかはわからない。自分では探せないから、父が書いてくれた本のメモをおじさんに渡した。本を捜してもらっている間に目に飛び込んできたのが、鬼の格好の緑の髪の女の子の漫画。
虎柄のビキニを着ている、宇宙からやってきた彼女は何故か地球人と追いかけっこをしており、ブラジャーが取れて胸が露わになったり空が飛べて、怒ると雷を放出する。追いかけっこは女の子の勝ち。子どもには非日常過ぎて、すぐ引き込まれた。とても気になった。欲しかったら買っても良いと言われたのを思い出して、父に頼まれた本と、その漫画を1巻買って帰った。
その日の夜、寝る前に、父に10巻まであったことを何気なく話すと、明日朝のうちにもう一度本屋へ行って、10巻ぜんぶ買っておいで、と言われた。付き添いお泊りしたご褒美だと言った。うれしかった。明日という日は日曜で、たしか午後に母が迎えに来る事になっている。バイクで1時間ほどかけて迎えに来てくれる。ワクワクして朝を迎えた。昨日の本屋に行き、おじさんが「おっ?来たね?」という感じの笑顔で迎えてくれたことと、まだ朝の空気が残る駅前を、漫画本9冊が入った袋を下げて歩いたのを覚えている。
■ここが好き
世界観
舞台は日本で地球なのだけど、いま自分がいる世界じゃない設定なのが面白かった。宇宙から来た女の子ラム、浮気性でいい加減でエゴイストでスケベな男子高生あたる、この男子高生のことが好きな同級生の幼なじみ・しのぶ。錯乱坊という怪しい坊様と、金持ちの面堂終太郎、ラムの幼なじみの弁天、ラン、おユキ、ラムのいとこの小さな鬼・テン。
宇宙から来たラムは空が飛べて、スタイルがよくて、かわいい。怒ると指先から雷を放出させ、あたるをこらしめる。いとこのテンも同じ鬼族で空を飛べるがまだ幼いから飛ぶのが遅く、こちらは口から炎を吐き出す。
もう全部がファンタジーでおもしろいでしょう、子どもには衝撃的でした。
ストーリー
ストーリーといったってこれといった大筋のストーリーが有るわけではなく、一話完結。だから小学生にも読めたんだと思う。ラムとあたるが浮気したり雷でお仕置きされるのはベースで、色々なキャラクターが出てきてはハチャメチャにかき回して最後はなんとかまとまって終わる。その繰り返しだった。でもこれがおもしろいのだ。
面堂終太郎の妹・了子が牛車を使い3日かけてお刺身入りの弁当を兄に届けたり、海水浴に行った宿で妖怪に喰われるところを逆に妖怪を追い詰めたり、ラムの幼なじみ・ランが地球にやってきてラムに仕返しをしたり、学校の保健室の先生・サクラと婚約者つばめの話、ふざけてると思えば、里帰りしたラムを追いかけてみたり帰ってこないラムを懐かしがって泣いたり…毎巻、毎回、飽きない。
人物
登場人物が皆、魅力的で楽しい。ラムは独占欲が強くて一途。あたるは浮気性だけど、ラムを好きでいるためによその女の子とも関わっていたいワガママなやつ、面堂終太郎はラムが大好きで、お金持ちなこと以外はあたると本質は変わらない(笑)、しのぶは一番まともなキャラで、あたるが好きだったけど面堂終太郎に乗り換え、最後は因幡さんと良い仲になる。サクラは美人でスタイルもよくてイケメンな婚約者が居て、でも実は霊能力者で妖怪が見えたりする。叔父上と母上は不細工なのにサクラだけ容姿端麗なのもおもしろい。子ぎつねや七面鳥やふぐ、タコ達、ヤギ、最終巻で出て来るひいおじいさん、闇の国のルパ、カルラ、妖怪の露子、竜之介、花屋のお姉さん、テン、おゆき、弁天、ラン…あげたらキリがない。
■そういうわけで
とっても思い入れの強い作品で、大好き。アニメもみて、アニメはアニメで原作とは違うキャラも出てきて、でもそれもいい。映画はVHSやテレビ放送などで観た。もう原作は完結しているけど、未だにラムの人気は衰えていないし、何度読んでも楽しい。Kindle版で全部揃えたい本のひとつ。
うる星やつらといえば、クレモンティーヌさんが歌う「ラムのラブソング」もなかなかかわいのだ。